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薬物動態学3  [Biopharmaceutics and Relevant Pharmacokinetics 3]

開講情報
4年次 前期 薬学科:1.5単位 必修・薬科学科:1.5単位 選択
担当教員
教授 掛見 正郎    
備考
授業の目的と概要
 投与された医薬品は吸収、分布、代謝、排泄を受けながら、最終的に薬理効果・治療効果を発揮するが、これらの過程は一つ一つ完結しながら進行するのではなく、同時並行的に進行する。また標的臓器(Target Organ)中の濃度も時々刻々変化する中で、薬理効果・治療効果が発揮され、そして消失してゆく。このように、医薬品を患者に投与した後の薬物の生体内動態や、薬理効果・治療効果の消長は、時間の経過の中で「時間の関数」として取り扱う必要があり、これには速度論の概念を導入しなければならない。医薬品の吸収、分布、代謝、排泄を速度論的に取り扱い、その解析及び予測を行う領域を薬動学(pharmacokinetics:PK)という。さて、医薬品の生体内動態を速度論的に解析した最初の報告は、T.Teorelの一連の研究といわれており、今から実に70年も前のことである。これらの数式的な取り扱いを含め教科書として初めて纏めたのが F.H.Dost  である。また、現在でも繁用されている繰り返し投与や投与計画の理論は、E.Kruger-Thiemer の一連の研究に由来し、医薬品の吸収に関する速度論的取り扱いは、E.Nelson の研究に依っている。このように、現在コンパートメントモデルを含む「古典的な薬動学」といわれる領域のほぼ全ての理論は、1960年代初めには完成されおり、これらを集大成し教科書として纏めたのがM.GibaldiとD.Perrier  である。Gibaldiらのこの教科書は世界的に最も評価され、多くの国で使用されてきた。現在でもこれを超える教科書は出現していないとも言われており、「薬物動態学3」もこの教科書を参考にして、進めて行きたいと考えている。
 薬動学は、人あるいは実験動物に医薬品を投与後、(1)血液中、尿中、体液中、排泄物中、組織中などの薬物濃度の時間的推移を測定し、(2)それらのデータを合理的に解釈できる実験的仮説を導き、(3)この仮説を用いて臨床データの予測を行い、最終的に、安全で合理的な薬物投与計画を作成することを目的としている。例えば、医薬品を患者に投与後の血漿中濃度を解析する場合、まず行うことは血漿中濃度データを普通グラフと片対数グラフにプロットすることである。この片対数プロットの終わりの直線部分、これをターミナルフェーズというが、これから傾き(Slope)を、普通グラフのプロットから最高血漿中濃度の高さ(Height)と血漿中濃度−時間曲線の占める面積(Area)を、そしてこれらを複合してモーメント(Moment)を算出する。これらの手順は、その頭文字をとって、SHAM分析(SHAM Analysis)と呼ぶ。「傾き」は薬物の生体からの消失する速さを、「高さ」は薬効強度の強さを、「面積」は薬物の吸収総量を、「モーメント」は薬物の生体内動態全体を表している。したがって、SHAM分析は、薬物の生体内動態の概略を迅速に掴むことができるので、すべての薬動学解析の基本である。このSHAM分析を行ったのち、(2)の薬動学的解析に取り掛かるが、目的に応じて3つの解析法、すなわち、コンパートメントモデル解析法(Compartment Model Analysis)、生理学的モデル解析法(Physiological Model Analysis)、そして非モデル解析法(Model Independent Analysis)が用いられる。薬物動態学3もこの3つの方法を順に紹介したいと考えている。しかし、ここでどのような解析法が使われたとしても、要は(3)の過程が最も重要であって、安全で合理的な薬物投与計画を作成することが最終目的であることを忘れてはならない。
●一般目標(GIO)
(1)薬効や副作用を体内の薬物動態から定量的に理解できるようになるために、薬物動態の理論的解析に関する基本的知識と技能を修得する。
(2)作用部位に達した薬物の量と作用により薬効が決まることを理解するために、薬物の生体内における動きと作用に関する基本的知識、技能、態度を修得する。
(3)薬物治療に必要な情報を医療チームおよび患者に提供するために、医薬品情報ならびに患者から得られる情報の収集、評価、加工などに関する基本的知識を修得し、それらを活用するための基本的技能と態度を身につける。
(4)個々の患者に応じた投与計画を立案できるようになるために、薬物治療の個別化に関する基本的知識と技能を修得する。
●到達目標(SBOs)
【薬動学】
1)薬物動態に関わる代表的なパラメーターを列挙し、概説できる。
2)薬物の生物学的利用能の意味とその計算法を説明できる。
3)線形1-コンパートメントモデルを説明し、これに基づいた計算ができる。(知識・技能)
4)線形2-コンパートメントモデルを説明し、これに基づいた計算ができる。(知識・技能)
5)線形コンパートメントモデルと非線形コンパートメントモデルの違いを説明できる。
6)生物学的半減期を説明し、計算できる。(知識・技能)
7)全身クリアランスについて説明し、計算できる。(知識・技能)
8)非線形性の薬物動態について具体例を挙げて説明できる。
9)モデルによらない薬物動態の解析法を列挙し説明できる。
10)薬物の肝および腎クリアランス、肝固有クリアランスの計算ができる。(技能)
11)点滴静注の血中濃度計算ができる。(技能)
12)連続投与における血中濃度計算ができる。(技能)
【TDM (Therapeutic Drug Monitoring)】
1)治療的薬物モニタリング(TDM)の意義を説明できる。
2)TDMが必要とされる代表的な薬物を列挙できる。
3)薬物血中濃度の代表的な測定法を実施できる。(技能)
4)至適血中濃度を維持するための投与計画について、薬動学的パラメーターを用いて説明できる。
5)代表的な薬物についてモデルデータから投与計画をシミュレートできる。(技能)
【遺伝的素因】
1)薬物の作用発現に及ぼす代表的な遺伝的素因について、例を挙げて説明できる。
2)薬物動態に影響する代表的な遺伝的素因について、例を挙げて説明できる。
3)遺伝的素因を考慮した薬物治療について、例を挙げて説明できる。
【投与計画】
1)患者固有の薬動学的パラメーターを用いて投与設計ができる。(知識・技能)
2)ポピュレーションファーマコキネティクスの概念と応用について概説できる。
3)薬動力学的パラメーターを用いて投与設計ができる。(知識・技能)
4)薬物作用の日内変動を考慮した用法について概説できる。
授業の方法
●準備学習や授業に対する心構え

●オフィス・アワー 
随時
成績評価法
筆記試験
教科書
書名 著者名 出版社名
『広義 薬物動態学』 掛見正郎 (編) 京都廣川書店
授業計画
項目 授業内容
1 薬動学概説 薬効や副作用を体内の薬物動態から定量的に理解できるようになるために、薬物動態の理論的解析に関する基本的知識と技能を修得する。
具体的には、薬物動態に関わる代表的なパラメータなどについて解説する。また、コンパートメントモデル解析法(Compartment Model Analysis)、生理学的モデル解析法(Physiological Model Analysis)、非モデル解析法(Model Independent Analysis)の概略について説明し、安全で合理的な薬物療法を行うためには、このような薬動学的解析が必須であることを体得させる。
2 線形1−コンパートメントモデル解析(1) 線形1-コンパートメントモデルを説明し、これに基づいた計算ができる。(知識・技能)
生物学的半減期を説明し、計算できる。(知識・技能)全身クリアランスについて説明し、計算できる。(知識・技能)
具体的には、静脈内bolus投与後の血漿中濃度を片対数グラフ、普通グラフにプロットし、SHAM分析から、全身クリアランス、消失速度定数、分布容積、血漿中濃度下面積などの計算法を習得する。
3 線形1−コンパートメントモデル解析(2) 線形1-コンパートメントモデルを説明し、これに基づいた計算ができる。(知識・技能)
生物学的半減期を説明し、計算できる。(知識・技能)
薬物の肝および腎クリアランスの計算ができる。(技能)
具体的には、静脈内bolus投与後の尿中排泄データを普通グラフに、尿中排泄速度を片対数グラフにそれぞれプロットし、SHAM分析から、腎クリアランス、消失速度定数、生物学的半減期などの計算法を習得する。
4 線形1−コンパートメントモデル解析(3) 線形1-コンパートメントモデルを説明し、これに基づいた計算ができる。(知識・技能)
具体的には、経口投与後の血漿中濃度と尿中排泄データを用いて、逐次傾斜法、log rate プロット法、シグママイナスプロット法などから、生物学的利用能、吸収速度定数、最高血漿中濃度(Cmax)、最高血漿中濃度に到達する時間(tmax)などの計算法を習得する。絶対的バイオアベイラビリティと相対的速度的バイオアベイラビリティ。速度的バイオアベイラビリティ(RBA)と量的バイオアベイラビリティ(EBA)
5 線形1−コンパートメントモデル解析(4) 線形1-コンパートメントモデルを説明し、これに基づいた計算ができる。(知識・技能)
点滴静注の血中濃度計算ができる。(技能)
具体的には、連続定速静注(constant infusion:点滴静注)を行った後の、血漿中濃度、尿中排泄データの取り扱い、定常状態(steady-state)での血漿中濃度、初回投与量などの計算法を習得する。
6 線形2−コンパートメントモデル解析(1) 線形2-コンパートメントモデルを説明し、これに基づいた計算ができる。(知識・技能)
具体的には、静脈内bolus投与後の血漿中濃度(セントラルコンパートメント)、組織コンパートメント濃度、尿中排泄の解析法を習得する。分布容積(Vss,Vβ、Vc)全身クリアランス、腎クリアランス、分布クリアランス、分布相、消失相、逐次傾斜法、ハイブリッド定数、マイクロ定数。
7 線形2−コンパートメントモデル解析(2) 線形2-コンパートメントモデルを説明し、これに基づいた計算ができる。(知識・技能)
具体的には、経口投与あるいは点滴静注後の血漿中濃度、尿中排泄の取り扱い。
8 非線形コンパートメントモデル解析 非線形性の薬物動態について具体例を挙げて説明できる。
線形コンパートメントモデルと非線形コンパートメントモデルの違いを説明できる。
具体的には、静脈内bolus投与後の血漿中濃度のグラフによる解析法の習得。投与量と血漿中濃度との関係、投与量と血漿中濃度下面積との関係。フェニトインなどの非線形性を持つ医薬品の取り扱い。
9 繰り返し投与と最適投与計画(1) 連続投与における血中濃度計算ができる。(技能)
具体的には、静脈内bolus投与を繰り返した場合の、定常状態血漿中濃度(Css)、平均血漿中濃度(Cav)、投与間隔(τ)、蓄積率(R)、初回投与量(DL)と維持投与量(D)、投与計画、最小有効濃度
10 繰り返し投与と最適投与計画(2) 連続投与における血中濃度計算ができる。(技能)
具体的には、経口投与を繰り返した場合の、定常状態血漿中濃度(Css)、平均血漿中濃度(Cav)、投与間隔(τ)、蓄積率(R)、初回投与量(DL)と維持投与量(D)、投与計画、最小有効濃度
11 モーメント解析法、Wagner-Nelson法、デコンボリューション モデルによらない薬物動態の解析法を列挙し説明できる。
具体的には、平均滞留時間(MRT)、平均滞留時間の分散(VRT)、全身クリアランス(CL)、血漿中濃度下面積(AUC)、0次モーメント、1次モーメント、2次モーメント。Convolution integral、Laplace transformation
12 クリアランスの概念と生理学的モデル解析法 薬物の肝および腎クリアランスの計算ができる。(技能)
具体的には、臓器クリアランス、固有クリアランス、抽出率、アベイラビリティ、肝初回通過効果、ウエルスタードモデル、パラレルチューブモデル、ディスパーションモデル、ディストリビューテッドモデル
13 薬動学の応用(1) 治療的薬物モニタリング(TDM)の意義を説明できる。
TDMが必要とされる代表的な薬物を列挙できる。
薬物血中濃度の代表的な測定法を実施できる。(技能)
至適血中濃度を維持するための投与計画について、薬動学的パラメーターを用いて説明できる。
代表的な薬物についてモデルデータから投与計画をシミュレートできる。(技能)
14 薬動学の応用(2) 患者固有の薬動学的パラメーターを用いて投与設計ができる。(知識・技能)
薬動力学的パラメーターを用いて投与設計ができる。(知識・技能)
15 補講:微分方程式の解法入門 線形微分方程式、ラプラス変換、ラプラス逆変換、ラプラス変換対、部分分数への展開、ヘビサイドの展開定理、モーメントとラプラス変換
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