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分子構造化学研究室

教授 土井 光暢 (薬学博士)

担当科目 物理化学1(1年)、物理化学2(2年)、
基礎薬学実習(1年)
生体機能分析学特論(大学院)、
領域統合型先端科学特論(大学院)、
創薬化学特論I~III (大学院)
所属学会 日本薬学会、日本結晶学会、日本分析化学会、
日本ペプチド学会
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講師 浅野 晶子 (博士(薬学))

担当科目 化学、化学演習、基礎薬学実習、
生体機能分析学特論(大学院)
所属学会 日本薬学会、日本ペプチド学会
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助手 加藤 巧馬 (学士(薬学))

担当科目 基礎薬学実習(1年)
所属学会 日本薬学会、日本ペプチド学会、日本DDS学会
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研究テーマ

機能性ペプチドの構造化学的研究

研究概要

 ポリペプチドが生体内で多様な「働き」を担うためには、その目的に適した「かたち」をとる必要があります。これらのポリペプチドをナノメートルの世界で観察することによって、「かたち」と「働き」の関係を見つけ、生命活動の根源となる現象を原子のレベルで明らかにしようと取り組んでいます。

プライベートページ


配属学生

【大学院生】   0名
【学部学生】   6年次生:16名、5年次生:15名


キーワード

ペプチド化学、X線結晶構造解析、ヘリックス、シート、チアゾール、アミロイド

研究内容

 例えば、L-Phe-L-Leuという配列は、抗菌作用をもつペプチド、鎮痛作用をもつペプチドなどのいろいろなペプチドに含まれています。このジペプチドは短いのでそれ自身に特別な作用はありませんが、典型的な芳香族アミノ酸(Phe)と典型的な枝分かれ構造をもつアミノ酸(Leu)の組合せなので、古くから基礎研究が行われてきたと考えられます。ところが、分子の構造が何十万件も登録されたデータベースを調べても、このジペプチドに関する情報は最近まで抜け落ちていました。
このジペプチドの構造を調べるためには、まず合成を行います。合成の利点は、生物が生成する量よりも多く、しかも高い純度で目的物を得られることです。L-Phe-L-Leuを合成する場合、L-Pheにt-butyloxycarbonyl基(以下、Bocと略す)を導入したBoc-L-Pheと、L-Leuにbenzyl ester基(以下、OBzlと略す)を導入したL-Leu-OBzlとを最初に合成します。このBoc基とOBzl基は保護基と呼ばれ、反応させたくない官能基を不活性化することで、余計な反応がおこるのを防ぎます。このBoc-L-PheとL-Leu-OBzlを適当な有機溶媒に溶かし、脱水反応をおこす試薬を加えると、アミド結合が形成され2残基のペプチドBoc-L-Phe-L-Leu-OBzlが合成できます(図1)。

図1 2つのアミノ酸の脱水縮合:青い部分が保護基。赤い部分が新しくできたアミド結合
図1 2つのアミノ酸の脱水縮合:青い部分が保護基。赤い部分が新しくできたアミド結合

図2 結晶 図3 回折イメージ

図2 結晶

図3 回折イメージ

 このペプチドを再結晶し、0.3 mm角程度の単一な結晶を1つ取り出します(図2)。この結晶に波長の短い光(0.7~1.5Å)をあてると、幾何学的な配列をした回折点が観測されます(図3)。幾何学的な配置と回折点の強度を一つずつ測定し、数学的な統計処理をすることで、結晶中の分子の立体構造を精密に知ることができます。(これを解析するといいます)


図4 結晶中に見つかった7つのペプチド分子
図4 結晶中に見つかった7つのペプチド分子

 Boc-L-Phe-L-Leu-OBzlの結晶は、少しずつ「かたち」が異なった7つのペプチド分子で構成されており、それらが特徴のある配置をとっていることが分かります(図4;水素は省略してます)。これが、今まで長い間解析されなかった理由のようです。結晶を構成する分子が1つなら解析は簡単ですが、7つもあったため解析には技術の進歩が必要でした。見つかった7つの分子をCα原子やアミド結合で重ね合わせると、分子の「端」にあるかさの大きな部分に差がありますが、中央付近ではよく似た構造であることが分かります(図5)。また、分子が並んでいる方向から配列を投影すると、図6のようにペプチド分子が左方向に40~60° 回転しながら、らせん状に並んでいることも分かりました。どうして,このような高度な規則性が単純なジペプチドによって作り出されるのか理由は分かりませんが、類似ジペプチドにも複数分子が集まる構造が見つかっているので、PheとLeuの性質の一つだと考えられます。このような性質はタンパク質の複雑な立体構造が最初にできるときに有効に働いているのかもしれません。


図5 7分子の重ね合わせ図 図6 図4を「上」から見た模式図

図5 7分子の重ね合わせ図

図6 図4を「上」から見た模式図

 また、保護基を除いて本来の性質である水溶性を復活させたジペプチドL-Phe-L-Leu-NH2についても、同様の方法で解析してみました。その結果、ジペプチドは1水和物結晶だったのですが、水和水分子がPheのベンゼン環と水素結合していることが推測されました。水分子はアミノ基と水素結合していますが、水素原子の1つがベンゼン環のπ電子雲の中央に向かって伸びています(図7)。水素とベンゼン環中央までの距離も2.49Åと短く、相互作用が生じていると考えられます。通常、水素結合は水酸基O-Hなどの水素原子と、非共有電子対をもつカルボニル基(=O)やアミノ基(-NH2)との間で生じます。まれに、アミノ酸のCα原子がC-H…O=という水素結合をすることは知られていましたが、ベンゼン環と水との相互作用を具体的に見いだした例はほとんどありませんでした。電子の分布を計算しても、水分子の電子が、ベンゼン環のπ電子雲の中央に突きささっている状態だと分かります(図8)。この相互作用は、理論上13.5 kJ/molの安定化が起こると算出されました。普通の水素結合では16~29 kJ/molの安定化がおこるといわれているので、かなり弱い相互作用です。しかし、タンパク質のα-へリックスやß -シート構造を安定化する第2の因子ではないかと考えています。

図7 水分子とL-Phe-L-Leu-NH2 図8 電子分布状態

図7 水分子とL-Phe-L-Leu-NH2

図8 電子分布状態

 このように、たった2つのアミノ酸が結合するだけでも、化学構造式からは想像もできないほど、立体構造はきれいで多様性に富んでいます。いくつもの類似化合物に対し、このような解析を行い、その結果解明されたそれら分子の「かたち」と機能と比較することで、機能性分子の設計に必要な基礎的情報を収集できます。
詳しくは http://msc.oups.ac.jp/ をご覧下さい。いろいろなペプチドの構造解析の例や発表論文などを見ることができます。


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